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民間が負債を増やさない場合、その分だけフロー上の支出(消費や投資)にお金が回らないわけなので、すなわち不景気というわけである。
ただし、もちろん民間が負債を増やせばそれで全てオッケt、というわけでもない。
民間の負債の増加ペースが加速してしまうと、大抵は株式や不動産などの資産価格の高騰が発生する。
要するに、経済のバブル化だ。
経済のバブル化とは、「民間の負債が加速的に増大する現象」を意味するのである。
およそ、この世に崩壊しなかったバブルは存在しない(というより、崩壊したからこそバブルなのだ)。
経済がバブル化した国では、やがて必ず資産価格の大暴落が発生し、その国の国民を痛めつけることになる。
さて、ここで現在のアメリカの各種「負債」の意味や状況について考えてみたい。
一口に負債といっても、国内の各経済主体(政府、家計、非金融法人企業、金融機432つのアメリカ関)の負債、あるいはアメリカが国家として海外から借りている負債(二対外負債)など、定義は様々だ。
それぞれの負債の意味を正しく理解し、推移を見ることで、現在のアメリカ経済に「何が起きているのか」について、正確に把握することが可能になる。
まずは最もマクロな数値ということで、国家全体の負債について考えてみたい。
リーマン・ショック以降、アメリカ国家の対外負債総額は、15兆ドル前後で「頭打ち」になっていることは先述した。
それに対し、アメリカ「政府」の対外負債、すなわち海外投資家の米国債保有額の増加傾向は止まっていない。
結果、米国債が対外負債に占める割合が、次第に上昇してきている。
逆に「民間」の対外負債の方は、実額も対外負債全体に占める割合も、次第に減少していっている。
民間の対外負債とは、例えば海外からのアメリカへの証券投資や、あるいはアメリカの金融機関による証券化商品などの「輸出」のことである。
アメリカ国家全体で見ると、民間の対外負債は明確に減少傾向にある。
そんな中、唯一連邦政府のみが米国債の海外への売却を継続し、対外負債総額を「下支え」している状況というわけである(妙な表現だが)。
IT技術や金融工学の発展以降、民間の代表的な対外負債の源となった「証券化商品の海外投資家への売却」とは、要するにアメリカ国民の「借金の輸出」である。
より分かりやすく書けば、海外諸国からのアメリカ国民への貸し付けなのだ。
住宅ローンにせよ、商工ローンにせよ、07年までのアメリカの民間は「証券化商品」経由で海外からお金を借り、国内の支出に回していた。
その結果、07年までの世界同時好況が実現したわけである。
現在はその流れがストップし、むしろ逆にアメリカの民間の対外負債が減少するという、極めて珍しい状況に陥っているわけだ。
次に、各経済主体について細かく見ていくと、前述の通りアメリカの民間は「対外」負債を次第に減らしつつある。
同時に、図1-3で明らかなように、いまや政府を除く全ての経済主体(家計、非金融法人企業、金融機関)において、負債(対外負債を含む)の伸びがストップしてしまっているのだ。
それどころかアメリカの民間は、08年以降はむしろ「負債を減らす」経済行動を取り始めている。
結果、連邦政府の負債が急拡大しているにもかかわらず、アメリ472つのアメリカカ国家全体の負債総額は横ばいになってしまっている。
要するに、現在のアメリカでは債権者の国内・海外にかかわらず、民間が負債を減らす中、政府のみが負債を増やし続けているわけだ。
民間の負債増とは、フロー(GDP)上の支出拡大の原資である。
先にも書いた通り、資本主義経済においては、民間が負債や支出を拡大してくれるからこそ、経済成長が達成されるのだ。
ところが、現在のアメリカでは民間が負債を増やすどころか、むしろ減らし始めている。
我々日本人には馴染みが深い「恐慌経済」、エコノミストのリチャード・クー氏が「バランスシート不況」と名づけた現象が、いよいよアメリカでも始まったのである。
4β恐慌経済下にあるアメリカ予め定義しておきたいのだが、本書において「恐慌経済」と「大恐慌」は、全く異なる現象を意味する。
恐慌経済とは、民間が負債を増やさず、フロー上で個人消費や民間投資が拡大しない経済のことである。
一方、大恐慌とは、恐慌経済下で政府が対処を誤った結果、フロー(GDP)が「数割」という規模で大収縮し、ストック(国家のバランスシート)までもが激減してしまう状態に至った経済のことだ。
具体的な例を挙げるとすれば、1932年前後のアメリカ大恐慌である。
29年のウォール街株価大暴落に始まった恐慌は、アメリカ経済を直撃した。
さらに当時のフーヴアー大統領が対策を致命的に間違えた結果、アメリカのGDPがおよそ4割も減ってしまったのである。
全国の失業率は25%を突破し、都市部では50%に達した。
当時のアメリカの都市住民は、半数が職を失うという悲惨な状況だった。
30年代のアメリカと比較すると、90年代以降の日本や現在のアメリカは、どう考えても未だ「大恐慌」には至っていない。
無論、両国とも間違いなく「恐慌経済」に陥っているわけではあるが。
少なくともフローの大収縮は発生していない。
恐慌経済の定義だが、先述の通り、資本主義国であるにもかかわらず「民間の負債が減少する」経済である。
とはいえ、この定義だけでは「なぜ、民間の負債が減り2つのアメリカがいるのか」が、いまひとつ判然としない。
恐慌経済に関する定義は、名城大学教授である木下栄蔵氏のものが最も適切であると考える。
すなわち、「市場利子率が投資効率を上回る結果、民間企業の負債が増えない」という状況である。
先にも触れた通り、民間が銀行などから融資を受ける際の金利を、市場利子率と呼ぶ。
さらに、民間の投資から得られる果実(利益)の割合が投資効率である。
投資効率を市場利子率が上回ってしまう場合、その投資により企業に「逆ザヤ」が発生してしまうことになるわけだ。
市場利子率が投資効率を上回るのが問題ならば、政府が政策金利を引き下げればいいと考えるかもしれない。
もちろん、その考え方自体は正しい。
しかし、恐慌経済の環境下では、政策金利が「ゼロ」に引き下げられても、投資効率が市場利子率を下回ってしまうのである。
現在の日本が、まさしくそうだ。
政策金利がゼロ金利とはいっても、現在の日本はデフレにより実質的な金利はゼJOロを上回っている(物価が下がり、通貨の価値が上昇するため)。
デフレ下で実質金利が上昇すると、「負債」の実質的な価値は上がってしまう。
日本政府の負債について、財務省などが「国家の負債!1000兆円!財政破綻だ!」などと騒ぎ立てているのは、現在の日本がデフレ環境下にあり、負債の返済負担が日夜増大してしまうためでもある。
実質金利が上がっている状況では、企業の投資効率は市場利子率を下回りやすくなる。
たとえ政策金利がゼロ近辺に引き下げられても、企業の負債に対する利払いや返済の「実質的な」負担は大きくなってしまうのだ。
ましてや、デフレ環境下である。
デフレ下では、企業が「同じ製品を同じ数量」販売したとしても、売り上げは下がってしまう。
売り上げの低迷は、当然ながら投資効率を抑制する。
結果、政策金利がゼロにもかかわらず、(実質的な)市場利子率が投資効率を上回るという、異様な環境が出現するのである『市場利子率が投資効率を上回る限り、企業は収益を上げたとしても投資には回さず、むしろ負債返済に回すだろう。
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